この仕事は大きなプレッシャーとストレスを伴っていたため、唯一の楽しみは帰り際に同僚と居酒屋で一杯やることでした。
仕事の愚痴や喜びを語り合い、お互いの苦労を共有することで、日常のストレスから解放される貴重な時間でしたが、
次第に財布の中身が減り、毎回の飲み代を工面するのが難しくなってきました。
普通なら次の給料日まで我慢するところですが、その日まで待ちきれそうもない私は飲み代を捻出する方法を必死に考えました。
そこで、思いついたのが、生命保険の前借だったのです。
正式には「契約者貸付制度」と呼ばれる仕組みで、生命保険を解約せずに、解約返戻金の一部を借りることができる便利な制度です。
この方法の利点は、手続きが簡単な上に低金利で返済期限も無いことです。
すぐさま保険証券と印鑑などを持参して、生命保険の窓口へ行きお金を借りたのです。
懐が温かくなって安堵した私は、早速、仕事の帰り際に同僚と一杯やることにしました。
しかし、働かずにお金を手にした初めての体験が、後に正常な金銭感覚を失わせて行き、奈落の底に突き落とされることになるのを、この時はまだ知る由もなかったのです。
これは、保険を解約せずに現金を確保できる便利な仕組みで、急な出費や一時的な資金不足への対応手段として活用されることが多い制度です。
この制度では、契約している生命保険の「解約返戻金」の範囲内で貸付限度額が決まり、その範囲内であれば、審査などをほとんど経ずに比較的スムーズに借入れが行えます。
銀行のローンのように収入状況を詳しく問われることも少ないため、「急ぎで現金が必要だが、保険は解約したくない」という場合の選択肢になりえます。
一方で、見落としがちなのが「利息の扱い」です。
契約者貸付は無利息ではなく、毎年所定の利率で利息が発生します。
そして、その利息は支払わずに放置すると元金に組み入れられていき、翌年以降は「元金+これまでの利息」の合計に対して、さらに利息がかかる仕組みになっています。
つまり、返済をしないまま長期間放置すると、雪だるま式に元利合計が膨らんでいくことになります。
この積み上がった元利合計が、保険契約の解約返戻金の額を上回ってしまうと、保険会社はそれ以上担保となる資産を確保できなくなります。
その結果として、保険契約自体が「失効」となり、以後、死亡保障や医療保障など、本来受けられるはずだった保険の保障が消滅してしまいます。
長年掛けてきた保険が、知らないうちに効力を失っていた、という事態にもなりかねません。
契約者貸付制度は、うまく使えば保険を維持しながら一時的な資金を確保できる有用な制度ですが、「返済期限が特に決められていないから」と安心して放置するのは危険です。
借入額や利率、解約返戻金の残高を定期的に確認し、できる限り計画的に返済していくことが重要です。
また、まとまった金額を借りる場合や返済が難しそうな場合には、事前に保険会社や担当者に相談し、将来の保障への影響も踏まえたうえで利用の可否や金額を検討することが望ましいでしょう。