日本の低所得化と後払い依存の関係

思わぬ落とし穴

日本の低所得化と「後払い依存」が深刻化する理由

1. 収入が増えない社会で、「今払えない」が日常になる
日本ではここ20~30年、物価や税・社会保険料がじわじわ上がる一方で、実質賃金はほとんど伸びていません。
正社員より不安定な非正規雇用が増え、ボーナスも昇給も期待しづらい人が多いなか、「給料日までお金が持たない」という状況は珍しくなくなっています。
こうした環境では、数千円〜1万円程度の出費でも「今この瞬間には払えない」場面が増え、「後払いサービスを使ってしのぐ」ことが当たり前になりやすい構造があります。
例えば、
・月収17万円ほどの一人暮らしの人が、家賃・光熱費・通信費を払ったらほぼ残らない
・急な飲み会や友人の結婚祝い、通勤用の靴の買い替えなど、想定外の出費が重なる
こうした時に、「クレジットカードは怖いけど、コンビニやECサイトの後払いなら気軽に使える」と感じ、後払いに手を伸ばしてしまうのです。
結果として、後払いは「ちょっとした生活費の前借り」として機能し、低所得化が進むほど依存しやすくなるという逆説的な状況が生まれています。

2. 「少額だから大丈夫」が積み上がり、借金に近づいていく
後払いが広がる背景には、心理的ハードルの低さがあります。
クレジットカードのような「借金している」感覚が薄く、
・アプリ上で数タップするだけ
・レジで現金を出さなくてもいい
・「今月は現金がピンチだから、来月払えばいいや」と考えやすい
といった要素が重なり、「お金を使っている感覚が鈍くなりがち」です。
1回あたりは2,000円〜5,000円といった少額でも、
・食費に後払い
・日用品に後払い
・ネット通販に後払い
…と複数のサービスを併用すると、翌月には合計数万円の請求になっているケースもあります。
ここで問題なのは、本人がそれを「借金」と認識していないことです。
実質的には未来の収入を担保にした借金であり、返済義務があるにもかかわらず、
「ちょっと支払いを後ろにずらしただけ」
と捉えてしまうことで、借金返済と同じ重さを感じずに利用額を増やしてしまいます。

3. 手数料・延滞料という「見えないコスト」
多くの後払いサービスは、広告で「手数料無料」や「金利ゼロ」を前面に打ち出します。
しかし実際には、
・支払いが1日でも遅れた瞬間に延滞料が発生
・コンビニ払込票の発行手数料が上乗せ
といった形で、「目立ちにくいコスト」が設定されていることが少なくありません。
低所得層ほど家計に余裕がないため、
・給料日まで待たないと払えない
・他の支払いを優先して、後払い分が後回しになる
といった理由で支払いが遅延しやすくなります。
その結果、
・1回の延滞で300~500円の手数料
・月に数回遅れるだけで1,000円以上の負担
という形で、「お金がないから後払いを使った結果、さらにお金が減る」という矛盾した事態に陥りやすくなります。
これは、クレジットカードのリボ払い手数料や消費者金融の利息と同じく、広い意味での「借金返済コスト」です。
しかし、利用者の多くはそれを借金コストとして認識しておらず、ただの「延滞のペナルティ」としか見ていないことが、問題を見えにくくしています。

4. 家計が「見える化」しづらく、管理不能に陥る
後払い依存が進むと、家計管理そのものが難しくなっていきます。
理由は、支出のタイミングと支払いのタイミングがズレていくからです。
例えば、
・今月使ったお金の一部が来月請求
・来月の給料からは、今月分だけでなく先月分の後払いも差し引かれる
これが常態化すると、「今月いくら使っていいのか」「来月いくら残るのか」が直感的に把握しづらくなります。
そこに、
・複数の後払いアプリ
・ネット通販の後払い
・家電やスマホの分割払い
・クレジットカードのリボ払い
などが混在すると、ほとんどの人は「全体像を頭の中で整理できなくなります」。
こうして、
「気づいたら毎月、給料のかなりの部分が過去に使ったお金の支払いに消えていく」
という、実質的な多重債務状態に近づいていきます。
表面的には「借金」の意識が薄いまま、借金返済と同じ構造だけが静かに進んでいくのです。

5. 企業にとっては「延滞するほど儲かる」構図
後払いサービスのビジネスモデルを見てみると、単なる決済手数料だけではなく、
・延滞料
・手数料
・分割払いやリボ払いへの誘導
などが重要な収益源になっているケースが多く見られます。
つまり、「利用者がスムーズに完済するよりも、ギリギリまで払えず延滞した方が企業の利益は膨らむ」という側面があるわけです。
これはかつて問題視された、
・消費者金融の過剰貸付
・クレジットカードの多重債務
と同じ構造を持っています。対象がクレジットカードやカードローンから、
・後払いアプリ
・BNPL(Buy Now, Pay Later)
といった新しい形態に変わっただけで、「貧しい人ほど高いコストを払わされる」という意味では、現代版の貧困ビジネスと言っても差し支えない側面があります。

6. 「未来の自分」から前借りし続ける危うさ
後払いは、「未来の収入を先に使う」仕組みです。
本来なら、収入が右肩上がりで増えていく社会であれば、
・今月はきついけれど、来月以降で十分取り返せる
という前提で成り立つサービスとも言えます。
しかし現実の日本では、
・賃金水準は長期的に伸び悩み
・非正規雇用やフリーランスは収入が不安定
・物価や税負担は上がり続ける
という状況です。
つまり、「未来の自分」に余裕があるという前提が崩れているにもかかわらず、前借りだけが繰り返されているのです。
例えば、月収18万円の人が、毎月のように3万円分を後払いに頼ると、
・実質的に「今使えるお金」は15万円しかない
・翌月の給料からは、前月に使った3万円を返済するところからスタート
というサイクルになります。ここにさらに、スマホ代の分割払いやクレジットカードの支払いが加われば、いつまでも未来が楽にならない「借金返済ループ」にはまり込んでしまいます。

7. 個人の「自己責任」では片づけられない構造問題
後払い依存に陥る人に対して、
「計画性がない」
「お金の管理が甘い」
といった自己責任論が向けられがちです。
しかし、その背景には、
・賃金の伸び悩みと低所得化
・家賃や物価の上昇による生活費の高騰
・正社員になりにくく、非正規・フリーランスに偏る雇用構造
・医療・教育・子育ての自己負担の大きさ
・十分とは言えない社会保障やセーフティネット
といった「社会構造の問題」が横たわっています。
生活費をまかなうだけで精一杯の人にとって、
・緊急時の蓄えを持つこと
・借金を避けて現金だけで生活すること
は、そもそもハードルが非常に高いのが現実です。
そうした中で、手軽で審査もゆるく、すぐに使える後払いサービスは、「最後の逃げ場」として機能してしまいます。

まとめ:後払い依存を減らすには、「お金が足りない社会」そのものを変える必要がある
後払いそのものは、本来なら便利な決済手段の一つに過ぎません。
しかし、低所得化が進む日本では、
・日常生活の赤字を埋めるための“事実上の借金”
・延滞料や手数料によって貧しい人ほど損をする仕組み
・家計の見通しを曇らせる要因

として機能してしまっています。
後払い依存を「個人の浪費の問題」として片づけてしまうと、
・低所得化
・不安定雇用
・社会保障の脆弱さ

といった根本原因が見えなくなります。
借金や後払いに頼らなくても暮らしていけるだけの収入やセーフティネットをどう整えるのか、
そして、延滞や多重利用を前提にしたビジネスモデルをどこまで許容するのか。

「個人の家計管理」と同時に、「社会全体のルールや仕組みをどう変えていくか」を議論しなければ、後払い依存も、見えにくい形の借金問題も、今後さらに拡大していく可能性があります。
 

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