罰当たりな金銭感覚

奈落のいきさつ
罰当たりな金銭感覚

懲りることなく私は、火の車の家計にも拘わらず、夜になると仕事の打ち合わせや接待と称して飲みほうける呆れた生活を送っていました。
一方で、家に帰ると部屋のカーテンは薄暗く引きっぱなしの状態で静まり返り、ただ時間だけが無駄に過ぎていくような虚しい空間でした。

そんなある日の午後、玄関のベルが鳴りドアを開けると、そこには久しく会っていないおばさんが立っていました。
おそらく、私の乱れた生活を心配して様子を見に来てくれたのだと思い、久々の再会に戸惑いながら迎え入れ、控えめに挨拶を交わした後、おばさんはゆっくりとあたりを見渡しながら、身内のよもやま話を始めました。

話のさなかに私自身の近況を尋ねられ、どう答えたらいいのか一瞬あせりましたが、何とか差しさわりのない返答をして事なきを得ました。
そして、話が途切れた頃、おばさんは何も言わずにハンカチで包んだ小さな包みを差し出してきたので、戸惑いながら開くと中には5000円札が一枚、きちんと折りたたまれていたのです。

当然、おばさんの貴重な思いやりに感謝して、喜ぶのが通常の人間の気持ちだと思います。
ところが、そんな有り難い場面にも拘わらず、驚いたことに私は(もちろん表向きは失礼のないよう感謝の意を表しましたが)無感動のまま、そのお金をポケットに押し込んだのです。
心の中で感謝のかけらも湧いてこないことに対して自分自身へ苛立ちを感じましたが、どうすることも出来ませんでした。
5,000円は、おばさんにとって大きな金額だっただろうに、借金地獄で金銭感覚が麻痺してる自分にとっては、まるで砂の粒のように小さく、すぐに消えてしまう感覚でした。

 

追 記

感応度逓減性と金銭感覚麻痺の関連性

感度逓減性の定義
・人は利益や損失の絶対額が大きくなるほど、同じ金額の増減に対する「感じる痛みや喜び」が小さくなる心理傾向を持ちます。
・例えば、借金が0→10万円になる苦痛のほうが、100→110万円になる苦痛より大きく感じられるのが典型例です。

なぜ金銭感覚が麻痺するのか
・初期の小さな借入では「借りすぎた…」と強い痛みを感じます。
・ 借金が増えるにつれ、追加の借入に伴う心理的痛みの増幅が徐々に鈍化して行きます。
・「あと数十万円借りても最初ほど苦しくない」と感じ始め、借入への抵抗が薄まります。
・この感覚の鈍化が進むと、金銭感覚そのものが麻痺し、予算オーバーや多重債務に陥りやすくなる訳です。

対策ポイント
・借金総額を一元管理するツールで「今いくら借りているか」を常に可視化します。
・返済計画を参照点に設定し、定期的に「痛み」をリフレッシュします。
・認知行動療法的に、感度逓減性による歪みを自覚し、返済への危機感を維持する習慣をつけます。

 

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