元本は原則そのまま―「任意整理」がどう役立つのか
借金の返済が苦しくなってきたとき、多くの人が検討するのが「債務整理」です。
その中でも任意整理は、裁判所を介さず、債権者と直接交渉して条件を見直す比較的利用しやすい方法として知られています。
ところが、任意整理について調べると「元金(元本)は減らない」という説明を目にすることが多く、「それなら意味がないのでは?」と感じる人も少なくありません。
そこでここでは、「元金は減らない」とはどういうことなのか、任意整理がどんな場面で力を発揮するのかを、具体例を交えながら整理してみます。
任意整理とはどんな手続きか
任意整理は、借り手と貸し手が話し合い、既に発生している利息や今後の利息、遅延損害金などをどこまで減らすか、返済期間をどう組み直すかを合意する手続きです。
多くの場合、弁護士や司法書士が代理人として交渉にあたり、次のような点を中心に話を進めます。
・将来の利息をゼロにしてもらう
・既に膨らんでいる遅延損害金のカットを求める
・3〜5年程度で完済できるように分割回数を調整する
目的は「今後支払える現実的な返済計画をつくる」ことであり、「借りたお金そのものを大幅に免除してもらう」ことではありません。
「元金は減らない」の本当の意味
ここでいう「元金」とは、カードローンやキャッシングで実際に受け取ったお金の合計額のことです。
任意整理では、この元金そのものをカットしてもらうことは基本的に想定されていません。言い換えると、
・法的整理のように「元金を半分にする」「大部分を免除する」といった大幅な圧縮は難しい
・あくまで「借りたものは返す」という前提で条件だけを柔らかくする
というスタンスになります。
ただし、長期間高金利で返済していた場合、利息制限法に従って再計算すると、払い過ぎていた利息(過払金)が元金に充当され、結果的に元金が減るケースもあります。
この点は「交渉で元金を減らすわけではないが、法律上の計算をやり直した結果、実質的に元金が圧縮されることはありうる」と理解するとよいでしょう。
具体例:Aさんのケースで見る任意整理
Aさんは、次の3社から合計150万円を借りていました。
・B社:50万円(年18%)
・C社:60万円(年15%)
・D社:40万円(年20%)
毎月の返済額は合計で約6万円。支払いの多くが利息に充てられてしまい、いくら返しても元金がほとんど減らない状況でした。
家賃や生活費を払うと手元にほとんど残らず、このままではじり貧だと感じたAさんは、弁護士へ相談します。
任意整理後の返済条件
弁護士が3社と交渉した結果、次のような内容で和解が成立しました。
・将来発生する利息はすべてカット
・すでに付いている延滞利息も免除
・残っている元金150万円を3年間(36回)で分割返済
・毎月の支払い額:約41,600円
注目すべきは、「元金150万円はそのまま残っている」という点です。
一方で、それまで毎月約6万円支払ってもなかなか減らなかった借金が、任意整理後は約4万円強の支払いで、3年後には完済が見通せる計画に変わりました。
数字上の元金が減っていなくても、
・返済総額が利息分だけ大きく圧縮される
・返済期間と金額が明確になり、完済までの道筋がはっきりする
という意味で、Aさんにとっては「生活を立て直しながら返していける現実的なプラン」に変わったことになります。
任意整理の「利点」と「限界」
「利点」
・裁判所を通さないため、手続きが比較的スムーズ
・原則として職業制限がなく、官報への掲載もない
・家族や勤務先に知られにくい(郵送物や連絡方法に注意してもらえる)
・利息カットにより、返済総額・毎月の負担が大きく軽減される
返済能力がある程度残っており、「今後はきちんと返していけるが、このままの条件だと苦しい」という人に向いている方法です。
「限界」
・元金がほとんど減らないため、収入が極端に少ない人には負担が残る
・任意整理後も一定期間、信用情報機関に登録され、新たな借入やクレジットカードの利用が難しくなる
・債権者が任意整理に応じないケースもゼロではない
「そもそも元金自体が多すぎて、どう分割しても払えそうにない」という場合は、任意整理だけでは解決が難しくなります。
他の債務整理との違い
任意整理以外の主な方法として、「個人再生」と「自己破産」があります。
・個人再生:裁判所を利用し、元金そのものを大きく減額してもらう手続き。
一定の資産を守りつつ借金を大幅に圧縮できる反面、官報に掲載されるなどのデメリットがあります。
・自己破産:支払不能と認められると、原則として借金の返済義務が免除されます。
その代わり、職業上制限を受ける職種があったり、一定の財産を処分せざるを得ないなど、生活への影響も小さくありません。
任意整理は、この2つに比べると「元金を減らす力」は弱いものの、「生活へのインパクトが小さい」方法と言えます。
どれが最適かは、借金額、収入、家族構成、守りたい財産の有無などによって変わるため、個別の事情を前提に検討する必要があります。
まとめ:元金は返す、そのうえで「返せる形」に組み直すのが任意整理
任意整理は、「元金は原則として減らない」代わりに、
・利息や遅延損害金をカットして返済総額を抑える
・支払額と期間を現実的なレベルに調整する
ことで、生活を立て直しながら完済を目指すための手続きです。
一人で悩み続けていても、状況が急に好転することはほとんどありません。
「今の収入でどこまで返済できるのか」「任意整理で足りないなら、他の方法はあるのか」といった見通しは、弁護士や司法書士などの専門家でなければ判断しづらい部分も多いです。
借金の不安を少しでも軽くする第一歩として、早めに弁護士や司法書士などの専門家へ相談し、自分に合った解決策を一緒に考えてもらうことをおすすめします。