借りている自覚がない「借金」

思わぬ落とし穴

後払い決済がつくる「見えない多重債務」とは

スマホひとつで買い物が完結する今、「後払い決済(BNPL=Buy Now, Pay Later)」は、私たちの生活に完全に溶け込んでいます。
しかしその裏側で、本人が借金している意識をほとんど持たないまま、静かに膨らんでいく「新しい多重債務」が広がりつつあります。

昔のサラ金やカードローンのように、
借りている自覚がある借金」ではなく、
気づいた時にはすでに返済不能寸前まで来ている―。
これが、後払い決済が引き起こす「見えない多重債務」の怖さです。

1. 後払い決済は「クレジットカード未満の借金」ではない
PayPayあと払い、メルペイあと払い、楽天ペイの後払い、バンドルカード、Amazonの後払い払い…
これらは「クレカより気軽な支払い手段」として紹介されることが多いですが、仕組みとしては「立派な借金」です。
・クレジットカード
→ カード会社が立て替え、翌月以降に支払う借金

・後払い決済
→ 決済サービス会社が立て替え、後からまとめて払う借金

違うのは「雰囲気」と「見せ方」です。
クレカは「与信」「利用枠」「返済能力」といった“借金らしい”言葉が並びますが、
後払い決済は「チャージ」「翌月まとめて」「かんたん決済」といった、ライトなワードで包み込まれています。
この「借金っぽく見えない借金」であることが、新しい多重債務を生む出発点です。

2. なぜ借金の自覚がほとんどないのか
後払い決済には、利用者の心理的ハードルをぐっと下げる要素がいくつも仕込まれています。
・申し込みはスマホで数タップ、審査も短時間で終わる
・「今は払わなくていい」「給料日後でOK」というメッセージ
・「◯◯ペイ残高が足りない時に自動であと払い」など、借金と意識しづらい設計

結果として、
1回1回は1,000円〜3,000円程度の小さな支出なのに、
複数の後払い決済をまたがって使うことで、
月末に気づけば「合計数万円の請求」になっているケースが珍しくありません。
ここで厄介なのは、本人の頭の中では
「買い物しただけ」「後で払うだけ」で止まっていて、
「自分は借金を抱えている」という現実まで到達しないことです。
この「自覚の薄さ」こそが、見えない多重債務の最大の特徴です。

3. スマホとセットで生活インフラ化する後払い決済
後払い決済は、単なるショッピング手段を超え、次のような日常支出にも広がっています。
・スマホ料金や通信費の支払い
・動画・音楽・ゲームなどのサブスク
・ECサイトでの日用品・食料品の購入
・電子チケットやデジタルコンテンツの購入

生活に必要な支払いの多くが「スマホアプリ+後払い決済」で完結するため、
一度滞納が発生すると、影響は一気に生活全体に波及します。
・スマホ料金を後払いで払う → 支払いが遅れる → 通信が止まる
・通信が止まる → サブスクや決済アプリも使えない → 仕事にも支障
・そこで別の後払い決済に頼る → さらに借金が増える

こうして、「生活のインフラ」として組み込まれた後払い決済が、連鎖的な滞納と多重債務を生みやすい構造になっています。

4. 信用情報に出てこないから「問題が見えない」
従来型の借金、たとえばクレジットカードやカードローンは、利用状況や延滞情報が信用情報機関に登録されます。
そのため、
・銀行やローン会社は「この人はたくさん借金しているな」と把握できる
・家族や保証人も、ローン審査を通じて問題に気づくことがある

といった「発見のきっかけ」が存在しました。

ところが、後払い決済はサービスによっては
・信用情報機関に登録されない
・あるいはごく一部の情報しか共有されない

といったケースがまだ多く、
結果として次のような「見えない状態」が生まれます。
・家族から見ても、借金を抱えているようには見えない
・銀行やクレジット会社の審査でも、問題が検知されにくい
・本人も「審査に通っているから大丈夫」と誤解する

問題が表面化するのは、
すでに支払不能」「督促が頻発」「債権回収会社から通知
といった、かなり深刻な段階まで進んでからになりがちです。

5. 滞納した瞬間、「軽い後払い」が一気に「重い借金」に変わる
利用の段階では「気軽」「便利」と感じられる後払い決済も、滞納した途端に景色が変わります。
・遅延損害金の発生(年利換算でかなり高い場合もある)
・メール・SMS・電話などによる督促
・一定期間の延滞で、債権回収会社に移管

特に、PayPayあと払い・メルペイあと払いなど大手サービスは、
「滞納後の対応」はクレジットカード会社とほぼ同等か、それ以上にシステマティックで厳格です。

「数千円〜数万円だから、少し遅れても大丈夫」と油断していた人が、
・督促の連絡に精神的なストレスを感じる
・債権回収会社からの通知書や電話に恐怖を覚える
・返済のために、別の後払い決済やカードローンに手を出す

という流れで、本格的な多重債務へ転落していくケースが少なくありません。

6. 複数の後払い決済を「はしご」してしまう構造
後払い決済のもうひとつの特徴は、「種類が多く、参入障壁が低い」ことです。
・PayPayあと払い
・メルペイあと払い
・楽天ペイの後払い
・d払いの後払い
・Amazonの後払い(ペイディなど)
・バンドルカード ほか多数
それぞれの審査はクレジットカードより緩く、
「どこか1つで残高がいっぱいになったら、別のサービスに申し込み」
という使い方が容易に出来てしまいます。
こうして、
・A社の後払い:2万円
・B社の後払い:1万5,000円
・C社の後払い:3万円
・ネットショッピングの後払い:1万円
といった「小口の借金」が積み上がり、
合計すると毎月5万〜10万円の支払いを抱えている―
という新しい多重債務パターンが増えています。

本人は
どこか1社から多額の借金をしているわけではない
という錯覚にとらわれがちですが、
「トータルの返済負担は、昔のサラ金多重債務と大差ありません。」

7. 物価高と低所得が「生活費の後払い化」を押し広げる
かつての借金の代表例は、
・旅行
・ブランド品
・ギャンブル
・趣味の出費
といった「生活必需品ではない支出」が目立っていました。

ところが、物価高や賃金の伸び悩みが続く現在、
後払い決済の使い道として増えているのは、次のような“生きるための支出”です。
・食費や日用品の購入
・電気・ガス・水道などの光熱費
・病院代や薬代
・子どもの学用品や通学費

つまり、
生活費そのものが後払いで成り立っている」状態になっている人が増えています。

給料日まで生活費が足りない → 後払い決済でしのぐ → 翌月は後払い分も払うのでさらに生活が苦しくなる → また後払いに頼る
という“生活費の先送りサイクル”は、昔のサラ金問題と構造的に非常によく似ています。
違うのは、
・金利だけでなく「手数料」「遅延損害金」「分割手数料」など、コストの形が見えにくい
・借りている自覚が薄いまま、見えない多重債務が進行する

という点です。

8. 昔の多重債務と、今の「新しい多重債務」の決定的な違い
2000年代の「サラ金・クレジット地獄」では、
・年20〜29%といった高金利
・1社あたりの貸付額も大きい
・過酷な取り立て・違法な催促
・新聞・テレビが連日報道し、社会問題として“見える化”された
という特徴がありました。

一方、2020年代の「後払い決済による多重債務」は、
・1回あたりの利用額は小さく、利用実感も“ちょっとした後払い”
・多数のサービスに分散されることで、借金の全体像が把握しづらい
・信用情報や周囲の人からは見えにくい
・社会的にも、まだ深刻な借金問題として認識されていない

という、「静かに広がる」「見えない多重債務」という性質を持っています。

表面的には「利便性の高い決済手段」「現金いらずのスマートな生活」として歓迎されつつ、
その裏側で、「借金の自覚を持たないまま追い詰められる人」を増やしている―
これが、後払い決済が生み出す“新しい多重債務”の本質です。

9. 「見えない多重債務」に飲み込まれないために
後払い決済そのものが悪だ、という話ではありません。
ただし、「借金である」という事実をあいまいにしたまま使うことが、問題を深刻化させます。
少なくとも、次のような点は意識しておく必要があります。
・後払い決済は「クレジットカードと同じ種類の借金」である
・利用サービスが増えるほど、月々の支払い総額が把握しづらくなる
・「生活費の後払い」が常態化し始めたら、すでに危険水域に近い
・延滞はすぐに“普通の借金問題”へと姿を変える

便利さの裏側にあるリスクを理解し、
自分はいま、いくつの後払い決済で、合計いくらの借金をしているのか?」を
定期的に可視化する習慣が、これからの時代には不可欠になっていきます。

それほどまでに、後払い決済は私たちの生活に深く入り込み、
新しい形の見えない多重債務を静かに広げつつあるのです。
 

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